硝酸態窒素が悪いわけじゃなくて、悪いのは農家

ちらほら目にするようになってきた硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)という言葉。
有機野菜に興味がある人であれば、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
自然栽培に興味がある人であれば、知っていて当たり前のレベルになっているくらい有名な言葉でしょう。

この硝酸態窒素が、悪役にされています。
人間が食べると危ない、中毒になるとかガンになるとか、怖い話がそこらじゅうに広がっています。
真相はどうなのか。
興味がなければ今回の記事はスルーしてもらってかまいませんが、なるべく簡素にわかりやすく書いていきたいと思いますので、知っておいて損のない話として読んでいただければ幸いです。

 

硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)とは

硝酸態窒素
そもそも硝酸態窒素とはなんでしょうか。
窒素は分かりますよね。
元素記号N、原子番号7。
水兵リーベぼくの船・・・で始まるあの元素記号です。
大気中の8割を占めている、見えないけれど馴染みの深い物質です。
化学が嫌いだとここから先の話は頭痛のタネになってしまうのでかなり省きますが、窒素が化学反応を起こして他の物質と結びついている状態が
硝酸態窒素
です。
酸化している窒素、というくらいの認識で大丈夫です。

その酸化している窒素は、植物にとってなくてはならない栄養素
動物でいうところのたんぱく質とか炭水化物とか、それくらい大事なものです。
だから植物は、根っこから硝酸態窒素を吸いあげて光合成に利用するし、たくさん吸ってしまっても身体に蓄えることができます。
脂肪みたいに蓄えることができます。
植物にとって必要不可欠な、大切な物質です。

その大切な物質が土の中にたくさんあれば、植物はどんどん吸い上げていきます。
そりゃあそうですよ。
競争社会で生き延びていくためには、能力があるならどんどん稼いで(窒素吸収)、どんどん投資(光合成に利用)していったほうが有利です。
生存競争に勝つことができます。
生死にかかわる生存競争を忘れてしまった人間とは違って、植物はいつだって必死に生きています。
だから。
土にたくさん硝酸態窒素があれば、どんどん貯めこもうとするのは当然の行動といえます。

 

硝酸態窒素の危険性

その硝酸態窒素が、悪者にされています。
人間がこれを摂りすぎれば、メトヘモグロビン症という酸欠症を引き起こすとか。
これが体内で変化して生まれるニトロソアミンには、発がん性があるとか。
硝酸態窒素を悪者にしている人たちは、その危険性をやたらクローズアップしています。
でもよく考えてください。
どんなものにも、プラス面とマイナス面があるんですよ。
それを食べることによってプラスに働く場合と、マイナスに働く場合があるんです。
たとえば塩。
塩は人間にとって生命を維持するのになくてはならない大切な食べ物です。
でも、摂りすぎはよくない。
説明するのが馬鹿らしいくらい、塩の摂りすぎはよくありません。
塩を摂りすぎると、高血圧症、腎臓疾患、不整脈や心疾患の原因になると言われています。
大切なものだけど、摂りすぎると害になる。
それが塩です。

硝酸態窒素も同じこと。
硝酸態窒素を含んだ野菜を食べることには、プラス面とマイナス面があります。
硝酸態窒素そのものは人間にとって有害なものかもしれませんが、野菜に含まれているほかの様々な栄養素が人間にとってプラスに働いたりします。

カルシウム、鉄、カリウム、カロテン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、食物繊維など。
野菜に含まれているこれらの栄養素を摂ることで、人は健康的な生活を送ることができます。
悪い面だけをクローズアップして危険を煽るのはどうかと思います。

 

野菜を育てることと子どもを育てること

人間にとって硝酸態窒素は必要のないものかもしれませんが、植物にとっては絶対に必要なものです。
人はいらないけど、野菜は欲しい。
その違いを、どうやって折り合いをつけていくのか。
どうやって双方の言い分を受け入れていくのか。
その答えが栽培にあります。

野菜は、人間が育てている植物です。
野菜は、人間と共存することを選んだ植物です。
だから、野菜の気持ちを尊重しつつも人間の都合を織り交ぜていけばいいんです。
どういうことかというと。
野菜が生長していくために必要なだけの栄養を与えるんだけど、それは過剰ではない、最低限の量にとどめていくような栽培をするということ。
野菜が硝酸態窒素を吸いすぎないように、畑に入れる肥料を少なくするということです。
あればあるだけ吸いこんで貯めてしまうのであれば、貯めこまない程度の栄養だけを土の中に用意しておけばいいんです。

食事をする子ども
子育てをしていくときには、子どもの食事って親が用意しますよね。
栄養のバランスを考えたり、食べすぎないように量を決めたり。
子どもが健康に育つように、いろいろと考えながら食事をつくっていきますよね。

これと同じことなんです。
農家が野菜を育てるというのは、子どもを育てているのと同じなんです。
だから、野菜が健康に育ってくれるように、土の中に適切な食事を用意しておくことが農家には求められています。
農家は、野菜という子どもを健康に育てるために土の状態に気を遣うんです。

多すぎても少なすぎてもだめ。
どんな栄養をとってほしいのか、それぞれの野菜に合わせて与えます。
硝酸態窒素は、バランスを考えて与えていく食事の、ひとつの要素でしかありません。
全体的なバランスをみながら、硝酸態窒素も気にしていく、という感じでしょうか。

そこには化学肥料がだめだとか有機肥料がいいとか、いやいや無肥料じゃないと意味がないとか、といった肥料の質は関係ありません。

 

硝酸態窒素を気にして野菜を買うには

それじゃあ、人と野菜の両者の言い分を聞いた適切な硝酸態窒素を含んだ野菜を、どのように選んでいったらいいんでしょうか。
どこに行ったらそんな野菜が買えるんでしょうか。
それは。
私にも分かりません。
分かりませんが、見て選ぶことはできます。

一般的に、野菜が硝酸態窒素を過剰に貯めこんだときは葉の色が濃いです。
緑色が濃いです。
色の濃い野菜はいかにも美味しそうに見えるのでやっかいなんですが、それはぶくぶくと太った肥満な状態です。
硝酸態窒素を気にするのであれば、なるべく葉色の薄いものを選ぶといいでしょう。

そして。
食べてみるともっとよく分かります。
食べたときに苦みとかアクのような渋みを感じるのであれば、それは硝酸態窒素が原因で感じるものです。
ホウレンソウって舌に残るような渋みを感じること、けっこうありませんか?
あれがまさにそうです。
ホウレンソウは硝酸態窒素を体内にため込みやすい性質を持っているので、ふつうに栽培しているとアクを感じるような味になってしまうんです。
ごく単純に、舌がやばいと反応するということは、体によくないということ。
食べたときに苦みとかアクのような渋みを感じたら、これは自分にとってよくないものを食べているなぁと思ってください。

野菜を食べることがよくないわけじゃありません。
硝酸態窒素そのものが悪いわけじゃありません。
悪いのは。
硝酸態窒素を過剰に貯めこんでしまうような栽培をして、葉色が濃くて苦みやアクの強い野菜を育てる農家なんです。

わかりやすく言ってしまえば。
硝酸態窒素を気にするのであれば無肥料栽培とか自然栽培といった栽培を謳っている農家から野菜を買えばいいと思います。
そこまで気にしないけど、この記事で書いてきたような内容に納得していただけるのであれば、栽培にこだわりをもっている有機農家から野菜を買えばいいと思います。

結局は、野菜を育てる農家次第。
農家を選ぶことが、健康な野菜を買うことにつながるということです。

 

 

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