食の不安を解消するには ~農薬の歴史から考える~

この記事をご覧頂いているということは、
直接このページが検索に引っかかって来ていただいているか。
松本自然農園のホームページを見ている方がこのページも読んでみようと思っていただいたか。
だいたいそのような経路でこの記事に飛んできていただいていると思います。
ということはおそらく、食に対する不安は少なからず持っていますよね?
食に対して不安があるから無農薬野菜を求める、という人は多いですから。
今回は、食に対する不安を解決するにはどうしたらいいのか、そもそも不安が出てくるのはなにが原因なのか、食の安全は確保できるのか、といったことについて書いていきます。
いち農家の意見ではありますが参考になれば幸いです。
最後までご覧ください。

 

食の不安が生まれる原因

食の不安
食に対する不安として考えられるものはいくつもあります。
残留農薬
添加物、抗生物質
環境汚染物質
食品表示、産地偽装
食中毒
鳥インフルエンザ、BSE
遺伝子組み換え食品
アレルギー物質

などなど。
かなり多岐にわたります。

さらっと見てもらうだけも分かりますが、上記に挙げられた不安要素のほとんどが、文明が発達したことによって生み出されているものです。
便利な生活を送るために生み出されたものです。
おそらく、ほんの100年前にはなかったであろう問題ばかりです。

食料を安定して大量に生産できるように生み出された農薬。
食中毒など菌の繁殖を防いだり、低コストで商品を生み出したり、見た目を本物らしく見せるために使用される添加物。
小さなゲージに押し込められて卵を産み続ける鶏、共食いをさせられる牛。
自然界では起こり得ない遺伝子操作によって生み出される新しい生物、植物。

新しい物質や技術が世に出てきたときは、世の中がよくなるもっと効率がよくなるもっと豊かになる、と期待に胸を膨らませたはずです。
でもそれを利用しているうちに、利用の仕方がエスカレートして過剰になっていく。
もっとたくさん、もっと効率よく、もっと便利に。
そして求めすぎた結果、世の中を便利にしていたものが害に変わってしまった。
農薬が農産物に残ってしまったり。
過剰な添加物によって身体に害が及んだり。
抗生物質が効かなくなったり環境が汚染されたり。
家畜に病気が蔓延したり。
それらを目の当たりにすることで、食への不安は生まれました。

なんでこんなことが起きてしまっているかといえば、
競争に勝つため。
より多くの利益を得るため。

これに尽きます。
もっといいものを、もっと安く手に入れたい、という消費側の欲求。
もっと会社を発展させたい、もっと大きな利益を得たい、という供給側の欲求。
もっともっともっともっと・・・・。

 

農薬の歴史から見る食の不安

このことを農薬を例にしてみていきます。
戦後の食料難から一日でも早く立ち上がりたい日本は、食料増産による不安解消が悲願でした。
化学肥料をうまく使えば農作物の生育はぐっとよくなるので、化学肥料をどんどん使うことで生産量はどんどん増えていきます。
これにより食料増産が可能になり、飢えて困っていた食料問題はある程度解決されたのかもしれません。
でも。
化学肥料の使いすぎ、農作物を無理やり太らせることは、作物が病気にかかったり虫に食べられやすくなるひとつの要因になりました。
健康な人に比べると肥満がちな人のほうが、病気にかかりやすかったり怪我しやすかったりすることでわかると思います。
そんな肥満体質な農作物を守るため、登場してきたのが農薬です。
病気にかからないように予防接種をしておく。
病気にかかったときには薬を処方。
つまり、病気や虫にやられないように農薬をかけるということです。

化学肥料によって肥満ぎみに生育させながら、病虫害から守るために農薬をかける。
このようなやり方で、戦後の食料難から立ち直り、日本の食生活は豊かになっていきました。
ところが。
モットモットは終わらなかったんです。
もっと増産できればもっと利益が上がると考える農家。
もっと流通させればもっと儲かると考える流通業者。
もっと見た目がきれいで形が揃っているものを提供したい小売業者。
もっといいものをもっと安く食べたいと思っている消費者。
いろんな思惑が、いろんなもっとが積み重なってエスカレートしていきます。
その結果。
化学肥料をどんどん使って生産力を高めていくと同時に、
もっと強い農薬で病虫害を防ごう。
もっとたくさん農薬をまいて病虫害を防ごう。
という傾向が出てきたんです。
そして生まれたのが、残留農薬という問題。
環境汚染という問題です。
(これらの問題についてここでは詳しく触れません)
このことが表面化することで、農薬がらみの食への不安が生まれました。

 

不安解消はできるのか

今回は農薬を取り上げて、食の不安が生まれた経緯について書いてきましたが。
添加物、抗生物質、環境汚染物質、食品表示、産地偽装・・・。
ほかの問題でも同じだと思います。
より多くの食を。
より安く。
よりいいものを。
より多くの利益を。
もっと!もっと!を追求してきた結果が、いまの食の不安につながっています。

競争に勝つために、よりたくさんの利益を得るために行った過剰な投入、不正。
生産性を向上させ、大量生産・大量消費してきたことの弊害。
安いものを高く見せるための努力。
流通システムが複雑になり、生産者と消費者との間にたくさんの仲介者が入るようになったことの影響。
顔が見えにくくなったことで不正しやすくなったことは否定できません。
いろいろな要素が絡み合って、食に対する不安を作り出しています。
単純に農薬を禁止すれば解決するという浅い話じゃありません。

不正を止めるには、利益追求の社会システム自体を見直すべきなんでしょうか。
不正を見逃さないようにチェックを厳しくすればいいのでしょうか。
大量生産・大量消費をやめるか。
農薬を使わないようにして、有機農業で生産性向上の努力をするか。
有機農産物でさかんに行われている生産者→消費者といった、なるべく仲介業者を通さない仕組みを全体につくっていくのか。

食の不安をなくすためには社会全体が変わる必要があります。
そのための方策は、ぽんぽんと簡単に出てくるものではありません。
問題を掘り起こしておいて解決策を示さないのはどうかと思いますが、いち農家が軽々しく発言できるような小さな問題ではないんです。

それでも。
不安をなくすには、その不安はどうやって生まれたかを知ることから始まります
まずはそこからです。
だからこうして長々と文章を書いているんです。
不安の根っこを知った上で、その不安を解消するにはどうしたらいいのかを考える。
自分にできることはなにかを考える。
ということが大切です。

ひとつの解決策として、野菜や米に関していえば。
過度の利益追求しなくて済むように、生産者がじゅうぶんに利益を得るくらいの値段で買い支える。
有機農業を支持する。
農家から直接買う。
というのが身近で、今すぐにでもできるひとつの方法だろうと思います。
これが広がれば、農産物の価格が変わり、流通が変わり、生産側の意識も変わります。

ただし。
すべての食品についてこれをするのは無理です。
少なくとも精肉、加工品、調味料などは難しいです。

こんなときにできることはなにか。
選択できる行動は?
それが、信頼できる業者に任せるということです。
すべての食品について、個々がきっちり調べて購買を選択していくことは実際のところ難しいです。
だからこそ、調べて選ぶという行動を、信頼できる業者に任せてしまうわけです。
生活協同組合(パルシステムや生活クラブなど)が信頼できるなら、そこからなるべく買うようにする。

らでぃっしゅぼーやとかOisix(オイシックス)、大地を守る会などを利用する。

など。

本当に安全かどうかは最終的には心の問題ですが、なるべく安全な食品を扱っている業者を選ぶことはできます。
野菜の安全基準は心の中にある
食の不安を作り出しているのが人間の行動であるなら、食の不安を解消できるのも人間の行動です。
ひとりひとりの購買行動によって、世の中は変わります。
自分ひとりの行動は小さなものですが、たくさん集まればおおきなうねりになります。

というわけで。
不安をなくすための選択肢は用意されています。
それを利用するかはあなた次第だし、それを利用して不安が減るかどうかもあなた次第。
食の不安をなくせるかどうかは、ひとつひとつの行動の積み重ねにかかっています。

 

 

関連記事