スーパーに行くと様々な野菜が並んでいます。
だいたい何種類くらいあると思いますか?
季節によって変わる野菜の種類をすべて数えたとしてもせいぜい50種類くらいです。
ところが世の中にあるすべての野菜がスーパーに並んでいるわけではなくて、もっと珍しい野菜があったり欧米では当たり前に食べられているけど日本ではほとんど見かけない野菜があったり、野菜の種類はもっともっとたくさんあります。
そして、ジャガイモが
男爵、メークイン、キタアカリ、インカのめざめ
などのように品種名で売られているように、じつは他の野菜もほとんどすべてにおいて品種という分類があります。
    詳しくはarrow070_01品種とはなにかarrow070_01品種による違いとはなにか

上記リンク先でも書いていますが、品種というのは人間でいうところの人種みたいなものです。
野菜にもそういった分類があって、もともとあった祖先ともいうべき植物を人間が改良を重ねることで野菜として育てて生み出してきました。
もともと野生にあった完熟しても緑色のビー玉のような実をつける植物を、人間が
これ、食べられるんじゃね?
といって食べてみて、たくさん生えている中から美味しいものを選んでタネをとる。
そのタネを播いて育ててみる。
育ててみたそのなかには、完熟すると赤くなる変種があったりして、それを食べてみたらけっこう美味しかったからタネをとる。
すると次に育ってきたものは、みんな赤い実をつけるようになっています。
マイクロトマト
野生で勝手に生えていた完熟しても緑色のビー玉のような実をつける植物が
完熟すると赤色のビー玉のような実をつける植物
に、人間が選んでタネをとることによって変化したわけです。
ここからさらに、ビー玉よりも大きなゴルフボールくらいの大きさの実をつけるものを選んでタネをとる。
酸っぱい実が多い中から甘さがある実を選んでタネをとる。
ということを長い年月をかけて繰り返していくと、人間が好むような実をつける植物をつくりあげることができます。
これが品種改良です。
そして、おわかりかもしれませんが上記の品種改良をされてきた例でとりあげたのはトマトのことです。
トマトはこうやって野生の原種から大きく品種改良されて今の姿になっています。

さてここで。
そもそも品種を改良する目的はなんなのか、いったい誰のために改良しているのか、ということについて今回は考えてみたいと思います。

 

品種改良をする目的とは

品種を改良するときに考えなければならないのは、どのような品種をつくりたいかです。
目標があってはじめて改良の方向性が定まるからです。
前述のトマトの例でも、「大きな玉を」「甘いものを」「赤いものを」というような目標があって種とり&選抜による品種改良が行われてきました。
現代において品種を改良するというと目的は以下のようなものが主です。
病気に強い
収穫量が多い
美味しい
収穫した果実が長期の輸送に耐える
見た目がきれい
たくさん育てたときに大きさや収穫時期が揃う

 

このような品種をつくるために、種苗会社は日々努力をしています。
品種改良の要望に応えるために新たな品種を次々に世に出しています。
つまり、品種改良の目的を一言でいうなら
要望に応えるため
ということになります。
 

ここで気になってくるのが、誰の要望に応えるためなのか、です。
病気に強い品種をつくってほしいと願っているのは誰なのか。
とにかく美味しい品種をつくってほしいと言っているのは誰なのか。
これを知らなければ、なぜ次々と新しい品種が生み出されているのか説明できませんし、元をたどっていくと野生に生えている植物を人間の手によって野菜に変化させていった理由まで行き着きます。
誰のための品種改良なのかは非常に重要なんです。

まず、品種改良の目的をひとつひとつ見ていきましょう。
病気に強くしたい
これは農家の要望ですよね。
病気にかかりにくい品種、ある特定の病気にはかからない(抵抗性のある)品種を使うことで、安定した生産が可能になります。
生産が安定するということは、価格が安定することにもつながってくるので、これは結果として消費者にとっての利益につながります。
つまり、直接要望しているわけではないけど、安値で安定した農産物を欲しいという消費者の要望を間接的に満たすことになります。

収穫量が多い
これも農家の要望ですね。
同じ時間をかけて同じ栽培管理をしているのに、そこからとれる収穫量が多かったらこんなにうれしいことはありません。
短期的に局所的にみれば農家の利益になってくるんですが、長期的に大局的にみれば供給量が増えることによる価格低下につながります。
ということで、ここでもやはり安値で安定した農産物を欲しいという消費者の要望を間接的に満たすことになります。

美味しい
美味しいことはいいことです。
考えるまでもなくこれは消費者のための改良ですね。
青臭くて酸味が強かったトマトは、青臭さを押さえて甘みを前面に押し出すような品種改良をすることでこれまで食べられなかった人たちの食欲を喚起して需要を拡大しました。
苦みが強くて子どもたちに不評だったピーマンは、苦みを抑えるような品種改良によって子どもたちも食べられる美味しい野菜になりつつあります。
近年、トウモロコシは甘さが特に際立つような品種改良をされているため、子どもたちに大人気の野菜として君臨するようになってきました。
美味しい野菜を店頭に並べていれば評判を呼んで良く売れる、だから小売店側の要望だということもできそうですが、美味しい野菜がより美味しくなり、食べにくかった野菜が改良されて食べやすくなる、というのは消費者の要望があるから行われている品種改良だとみるのが妥当でしょう。

収穫した果実が長期の輸送に耐える
輸送に関わる問題を解決するため品種改良は、ストレートに流通業者のためのものだと言えます。
また、店頭に並べる時に傷んでいるのは勘弁してほしいという小売店側の要望とみることもできます。
ですが、ここでもまた最終的に消費者の利益になりそうな気配があります。
分かりやすい例がトマトです。
昔は赤く完熟すると柔らかくなってしまう品種が多くて、完熟しない緑色のものを早めに収穫してしまっていました。
そうすると店頭に並ぶころには時間が経過して見た目は赤く完熟したようになってきます。
ただしこの場合、味は収穫したときとそれほど変わらないので完熟収穫のものに比べると味が物足りないものになってしまいます。
そこで、完熟してもしっかりとした硬さがあって輸送に耐えられる品種がつくられました。
すると収穫するときにちゃんと赤く完熟しているトマトを採ることができて、輸送時に傷んでしまうこともなく、結果として美味しいトマトが店頭に並ぶことになります。
美味しさにつながる、これって消費者の利益っぽくありませんか?

見た目がきれい
大きさや形が揃う
見た目がきれいだったら売れやすいことは言うまでもありません。
スーパーの店頭に並べられたときに大きさや形がバラバラだったら値段をつけるときに計り売りになるので大変です。
大きさや形が揃うということは箱詰めしやすく輸送コストを低く抑えられるというメリットがあります。
大きさや形のばらつきによってS・M・Lというような規格分けをしますが、ばらつきが少ないことは規格外品が減ることにつながり農家にとっての利益になります。
というように農家・流通・小売それぞれの要望を叶えているようにみえます。
そして当然のようにここでも消費者の要望が含まれています。
見た目がきれいなものから手にとって買っていく。
まっすぐなキュウリが先に売れていく。
店頭に並んでいる野菜は自分でよさそうなものを選んで買いますよね?
その行為そのものがじつは「見た目がきれいで形がよいものが欲しい」という品種改良に対する要望でもあるんです。

 

買い物は投票である

買い物袋
このように、品種改良がどのような要望に沿って成されているかを考えていくと
ほとんどが消費者のため
であることが見えてきます。
改良の目的は様々であるけれど、それが誰のために行われているものなのかを辿っていくと、最終的には消費者のためであることがわかります。
野生の植物のなかから食用になりそうなものを選んで、タネをとって品種改良を続けてきた長い歴史には、もっと美味しいものを食べたいもっとたくさん収穫したい、という消費者の望みを叶えようとする強い希望が込められています。

だからこそ、どんな野菜を食べたいのかということを、買うという行為を通して世間に浸透させていく必要があると思います。
ひとりひとりの購買行動は小さな影響しかないけれど、それが集まっていくことで農家が動き、小売店が動き、流通が動き、種苗会社が動き、そして国が動きます。
モノを買うことは投票することに等しい、という表現はよくされますが、ほんのすこしでいいので品種についても頭の片隅に入れながら買い物をしてみることをお勧めします。